ジェリー・ロペス｜海に遊ぶ

次の波に乗るために

“ショートボード・レボリューション”の一翼を担った数名のコアなサーファーたちの中で、ジェリー・ロペスだけが「サーフィンの神様」と言われるほどまでに評価されているのはなぜか。それはおそらく、彼のサーフィンに対する姿勢にある。

「サーフィンというのは、波に乗るという行為のことではないんだ。波に乗ることによって心が開かれた状態になり、自然とひとつになる。波のパワーを自分のものと感じるような一体感、それがサーフィンなんだ。だから簡単にスポーツとして捉えちゃいけない。どちらかというと個人のState of Mind（心の有り様）と表現した方が正しいんだ」

常にサーフィンの本質を理解しようと努めてきたジェリーは、2005年からパタゴニアのオーシャン・アンバサダーに就任した。サーフィン界の礎を築き上げてきた功罪として、地球環境への責任を果たそうと努めている。「サーフィンが教えてくれるもっとも大事なことは、自然あってこその自分、自然の中に生かされているという自分の位置だろう」と話すパタゴニア創業者のイヴォン・シュイナードは、ビッグビジネスに成長したサーフィン界のあり方に次のように警鐘を鳴らす。

「私がサーフィンを始めた頃、60年代のサーフィンはとてもピュアなものだった。シンプルで最も海と近づけるスポーツだった。美しい海があってこそのスポーツのはずなのに、今では環境に有害な材料を多く使い、大量生産をするミリオンダラービジネスになってしまった。どんな風に言い訳をしようとも、その事実からは逃れられない。その中でいかにそのダメージを小さくしていくか、そこに力を入れたいと私は思っている。そしてパタゴニアが、大きくなりすぎたサーフィン業界に、クリーンでシンプルな本来のサーフィンの素晴らしさを見直す機会を与えることが出来れば、と思っている」

ジェリーはイヴォンの思想とパタゴニアの企業哲学に共感し、パタゴニア社の一員となった。そして、新聞記者だった父の影響から、自身が海で体験してきた数々のストーリーを書き残していった。こうして各国語で刊行された『SURF REALIZATION』と『SURF IS WHERE YOU FIND IT』は、サーフィンの純粋なエッセンスが凝縮されているのみならず、語り継がれるべきサーフィンの歴史そのものだった。そして2022年8月、自身が主役としては初となるドキュメンタリー映画『ジェリー・ロペスの陰と陽』がパタゴニア・フィルムズより公開される。監督を務めたのは、伝説的なスケートボードチーム「Z-Boys」の一員であり、サンダンス映画祭で最優秀監督賞を獲得した『Dogtown and Z-Boys』で知られるステイシー・ペラルタだ。サーフィン界の最も謎めいたヒーローに肉薄したこの映画は、サーフィンとは何かを語る上で重要な映画になるに違いない。

最後に、かつてジェリーが小誌読者に向けて綴った言葉を紹介したい。

「ヨガに興味を持ち始めた頃、人生には遙かに多くの意味があると信じるようになりました。人生の物理的、精神的な側面、それだけでも十分大きな意味を持ちますが、それだけではないのです。疑問を投げかけ、知を追求すること。その行為によって波、自然、そしてヨギーの教えの中に、自分の信仰を見つけることができました。この発見をあなたと分かち合い、興味を刺激できればと思います。生きていく上で精神のバランスを保つこと。それは心に平和と幸福をもたらし、ストレスや苦しみから解放してくれます。僕はまだすべての答えを見つけたわけではありません。今でも探しています。波を逃した時は今でも落ち込むし、悔しい。でも一つ学んだことがあります。それは……次の波はいつもやって来ているということ」

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