北村道子×池松壮亮 ファッションと身体論 SWITCH Vol.34 No.7

LESSON ファッションと身体論
TEACHER 北村道子 STUDENT 池松壮亮



『それから』、『殺し屋1』、『メゾン・ド・ヒミコ』など、数々の映画衣裳をはじめ、雑誌・広告・MVなど様々な領域で衣裳デザイン・スタイリングを手掛けてきた北村道子。その北村が、現在25歳、若手実力派としてオファーが絶えない俳優、池松壮亮に実践スタイルでファッションと身体についてのレクチャーを行った


PART1
記憶に残るクローズアップ
無防備こそが最高の武器

北村
お会いするのは二度目ですね。
池松
ええ、二年前に一度お会いしました。僕の知り合いのヘアメイクさんが最近北村さんと知り合ったというから、北村さんにはすごく興味があったので、どんな感じの方なんですかといろいろ聞いていたんです。そうしたら今度一緒に会いに行こうということになって、朝の新宿のカフェでお会いしました。小一時間ぐらいでしたよね。
北村
そうそう、不思議な出会いだった。申し訳ないけど、私は池松壮亮という名前は思い出せなかったが『ラストサムライ』(二〇〇三、エドワード・ズウィック監督)に出てた子だと言われて、あの少年かと(池松はトム・クルーズ演じるオールグレンと心を通わせる侍の少年・飛源役で出演している)。あの子はすごくいいねと言って会うことになったんです。その時、何を話したかは忘れちゃったけど。
池松
僕はほとんど何も喋っていないですね。ただただ北村さんのお話を聞いていました。
北村
『ラストサムライ』の話はたくさんしたと思う。どうってことない少年役なんだけど、とても印象的なクローズアップが心に残っているんです。他のシーンは全部忘れているんだけど。『ラストサムライ』のスタッフの優秀さだと思う。あの映画から何年経ったんですか?
池松
十二歳の時ですから、もう十三年です。
北村
そんなに経ってるの?
池松
小学校六年生でしたから。僕にとっては初めての映画でした。まだ上京する前で、福岡にいて。田舎者だった頃です。
北村道子 池松壮亮

北村
でもこうして話していても、あのクローズアップがふっと蘇っちゃうんだよね。
池松
僕が北村さんのお名前を知ったのもやっぱり映画です。最初は浅野忠信さんの若い頃の映画。すごい衣裳を着てるなというところから、北村さんという名前をよく見かけるなと意識するようになって。『幻の光』(一九九五年、是枝裕和監督)、『殺し屋1』(二〇〇一、三池崇史監督)、『水の女』(二〇〇二、杉森秀則監督)。あの頃の浅野さんの映画はほとんどやられていますよね。映画のスタッフの名前ってなかなか記憶に残らないじゃないですか。それだけ強烈だったということだと思います。

それから北村さんの本も読みました。『衣裳術』(リトルモア刊)。映画に関するすべてに興味があるので手にとったんです。いつか会えるのかな、でも最近は北村さんは映画の仕事をやられていないしな、と思っていたらお会いできました。
北村
ほんとだよね。新宿で出会って、今日は二度目。何かの縁だなと思う。それでまた『ラストサムライ』の話をしちゃうんだけど、あの映画を私はとても評価しているんです。日本では評判が良くなかったみたいだけど、ハリウッドが黒澤明監督から学んで立派な時代劇を作っている。どうしてそういうことが日本ではできないのかと思う。クリント・イーストウッドの『硫黄島からの手紙』(二〇〇六)だってそうです。本来だったら日本で作ってもいいでしょう。それをアメリカ人のクリント・イーストウッドがやっちゃうんだから。やっぱりダーティハリーですよ。

日本には黒澤さんや小津安二郎さんがいた。でもその黒澤さんの『隠し砦の三悪人』(一九五八)を観て『スター・ウォーズ』(一九七七)を作ったのは、ジョージ・ルーカスなんです。スピルバーグもそう。マーティン・スコセッシもそう。ジム・ジャームッシュは小津さんを観て良くなっていった。世界中にお弟子さんがいるんです。だから映画ってすごいんですよ。
池松
そう信じています。

※ 掲載内容は 本誌 からの抜粋です

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